共同親権 ドイツの制度を田口理穂さんに学ぶ
ごみ・環境ビジョン21は、多摩地域のごみ問題に取り組む市民団体です。1998年設立以来26年、リサイクル・リユース・発生抑制・資源化・ごみ焼却などを、自治体発表の数字をもとに考え提言してきました。2011年原発事故以降は、エネルギー問題にも取り組んでいます。私は2004年頃(議員になる前、ごみ減量の市民団体で生ごみ資源化に取り組んでいた頃です)に入会し、会員を継続しています。
そのごみ・環境ビジョン21の人気コラム「田口理穂*ドイツのあれこれ No.42」で、「共同親権、こどもは両方の親に会う権利がある」の転載をお許しいただきましたので、ここに書かせていただきます。青字が転載部分です。
Bericht aus Deutschland 田口理穂*ドイツのあれこれ NO.42 (ごみっと・SUN 2024年5月26日号より)
共同親権、こどもは両方の親に会う権利がある
日本で共同親権が導入されることになり、いろんな議論がされています。ドイツはもちろん世界的にも、共同親権が主流です。ドイツの事情について説明したいと思います。
「共同親権について書く」とライター仲間に話すと「炎上するからやめた方がいい」と言われます。それだけ共同親権は日本では敵視されているようです。私は法廷通訳なので、夫婦のどちらかが日本人でドイツ語ができないとき、裁判で通訳をしています。
例えば母親が子どもを連れてシェアハウスに逃げた場合、父親は妻子と連絡が取れなくなるので、弁護士を通して裁判所に申立てをします。
母親に弁護士がつくのはもちろん、子どもにも別の弁護士または専門家がついて、事前に子どもに父親との関わりや父親についてどう思っているのか聞きます。青少年課の職員も面接をし、親子のやりとりを観察し、子どもの意見を尋ねます。
裁判では弁護士や青少年課職員が発言し、それを元に裁判官が夫婦にどうしたいか尋ね、自分たちで話し合って決めるよう導きます。中立的立場の専門家が入ることで、親による一方的な主張や言い争いに終始することがなくなります。
子どもを父親と二人きりで会わせたくない母親はもちろんいますが、よほどの理由がない限り認められません。
裁判では「今週末から定期的に子どもを父親のところに行かせましょう」と、展開が早いのでびっくりします。
子どもへの暴力暴言が認められない限り、裁判官は「子どもは父母両方に会う権利がある」という立場。それが子どもを尊重することであり、夫婦関係と親子関係は別です。親子関係は一生続くので、どちらかに不満があると大きな禍根を残すため、単独親権には非常に慎重です。
子どもが一週間ごとに父母のところに住む「交代モデル」が推奨されていますが、母親のところに住み、父親のところに2週間に1度の週末に出かけるというのが多数派です。さらに追加で毎週水曜日に父親のところに泊まったり、長期休みは長く過ごすなど、バリエーションがあります。
日本では「共同親権は夫婦が協力関係にある場合はいいが、そうでない人はどうするのか」という反論をよくききます。もちろんドイツでも揉めている夫婦はたくさんあり、共同親権は万能ではありません。けれどドイツでは共同親権を可能にする制度が整っていると感じます。例えば…
1…離婚は裁判をしないと成立しない。裁判で財産、養育費、生活費、年金などについて決定する。
2…一緒に暮らさない親は養育費を払う。額は、収入に応じて基準がある。
3…養育費を払わない場合、国が取り立てる。払わない期間は、国が立て替える。
4…共同親権でも「片親がひとりで決定権を持つ」というしくみがある。学校の選択や手術をするかしないかなど、一緒に暮らしている親がひとりで決定できる。
5…DV夫には、妻子の居場所を知らせないなどの措置ができる。
6…親が犯罪を犯したり、取り決めを守らない場合などは、単独親権になることもある。裁判を通して決める。それを支える土台として、●収入が少ない人への支援制度が充実している。専業主婦でお金がないから離婚できないということはない。●収入が少ない人には国が裁判や弁護士費用を出すので、泣き寝入りせず裁判ができる。後に十分な収入が入ると一部返却する。
ドイツは社会福祉が充実しており、路頭に迷うことはありません。共同親権には子どもを尊重するという意識はもちろん、親権とひとくくりにせずに権利を細かく分けて、各ケースに合わせた対応を可能にすることが必要ではないかと考えます。
ごみかんドイツ特派員 田口理穂
田口理穂さん:在独ジャーナリスト。ドイツ裁判所認定通訳。日本で新聞記者を経て、1996年からドイツ在住。著書に「なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか」(学芸出版社)、「市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命」(大月書店)など。
ごみ・環境ビジョン21の「ごみっと・SUN」編集担当の方によると、田口さんは「ごみと環境」がテーマなのに共同親権の記事を寄稿することに当初ためらいがあった、とのことでした。
が、私にとっては、大変ありがたかった。「共同親権が、日本ではねじれた対立の構図として議論されてしまうのはなぜか?」「そもそも、子どもを尊重する、が制度として保障されるとはどういうことなのか?」整理できなかった部分を、スッキリと書いてくださった。
子どもに「あなたはどう思うの?」と冷静に尋ねることのできる専門家を用意できるか。その子が落ち着ける場所を提供できるか。トラブルがあったとき、「家族で解決してください」と放り投げる日本のしくみでは不十分。養育費を取り立てる、立て替える、と権限を持って国が面倒をみるしくみがセットでないと、議論が宙に浮いてしまう。
そのことがあらためてはっきり理解できた記事でした。田口さん、ごみ・環境ビジョン21の皆さん、ありがとうございました。
2005年にFoEJapanエコツアーでフライブルグを訪れた経験は、私に環境問題のみならず、「民主主義とは何か」「市民と政治の関係性」について目が覚めるような新しい視野を与えてくれました。またドイツに行きたくなっちゃいました!!
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子どもの意思を尊重する、という言葉の意味を一層深めていきたいと考えています。