全国女性シェルターネットの緊急声明に賛同します

なぜ救いの手が届かなかったのか・・・。亡くなった母子の冥福を祈らずにはいられません。

 5月28日(火)、全国女性シェルターネット

http://nwsnet.or.jp/index.html

が緊急声明を出しました。餓死遺体で発見された大阪市北区の母子の事件にかんがみ、出されたものです。DV加害者から逃れるための転居などをきっかけに、行政の目からこぼれ落ち、深刻な孤立状態に陥る親子の存在がはっきりと見えてきました。あらゆる手段を使って、子どもたちの命を守る施策が求められています。

 

 

 

DV被害当事者の生命の安全を確保するための緊急声明

2013年5月28日 全国女性シェルターネット

 各社の報道によると、去る5月24日、大阪市北区のマンションで28歳の女性と3歳の男児が餓死とみられる遺体で発見されました。女性は大阪市守口市で夫からのDV被害にあい、子どもを連れて暴力からの脱出をはかったものの、生活保護等の支援と一切つながることなく、深刻な困窮状態のうちに餓死したという報道もされています。知人に「夫の暴力に悩んでいる」と相談し、夫はもとより実家にも転居先を知らせず、住民票も移動せずに、加害者からの追跡をのがれる日々の中で、とうとうライフラインも断たれ、命を失う悲惨な結果となりました。

 おりしも、5月17日には「生活保護法」改正案と「生活困窮者自立支援法」案が閣議決定されました。生活保護法の改正案では、申請時に、資産や収入の有無及び扶養義務者の状況などを書面で届け出なければならないことになっています。

 現在、国会において法改正の審議が続けられているところですが、これまでDV被害者の生活保護申請手続きについては、当事者の安全を守り加害者からの追跡とさらなる暴力の危険を回避するために、必要とされる運用上の配慮を行うことになっていました。加害者である夫や身内への扶養照会をしない、預貯金等の口座確認などは事後に行う、支援者の同席のもとで、福祉事務所窓口ではなく安全な場所で申請手続きを実施する、書類がそろっていなくともまず申請を受理する、などの配慮です。

 今回の生活保護法の改正によって、これまで、なんとかぎりぎりのところで守られてきたDV被害当事者の安全な保護受給手続きが、さらに困難をきたすようになりはしないか、ようやくの想いで窓口にたどりついた当事者が「水際」で申請手続きそのものを拒否されることになりはしないか、大阪の女性のように、保護を必要としている当事者が、ますます、社会的支援から遠ざけられることになりはしないか、支援の現場にいる私たちは深刻な懸念を抱いています。

 自治体に転居届を出せないDV被害当事者は非常に多いのが現状です。神奈川県伊勢原市の殺人未遂事件でも明らかなとおり、DV加害者の追跡は執拗で長期間にわたるため、離婚後ですら、気を許すことができないからです。家族にも友人にも何も知らせられず、見知らぬ地域で新たな生活を始め、近隣の人々にも事情を知らせることができず、孤独の中にいるのが当事者の実際の姿です。着の身着のままで暴力から逃れてくる当事者にとって、生活保護制度は欠かせないツールなのです。「おなかいっぱい食べさせてあげたかった。ごめんね」というメモに、DV被害女性や子どもたちを支援する現場のスタッフは慟哭せざるを得ませんでした。

 私たちは、今次の生活保護法改正にあたり、被害当事者が安全かつ迅速に申請手続きを行えるように、また、受給を必要とする被害当事者が申請をためらわないようにするために、以下のとおり要望いたします。

一、生活保護の申請に際して、地方自治体は、加害者・親族への扶養照会をせず、被害当事者の生命の安全確保を徹底するための体制を整備すること。

一、国、地方自治体、報道関係者、市民は、DV被害当事者など社会的支援を必要とする人々に、支援制度の存在と安全な手続きができることを広く周知すること。