武蔵野赤十字の新型コロナウイルス対策~感染症リスクマネジメントと今後の課題
2021年、明けましておめでとうございます。
皆さまにとって本年がより明るく健康な日々となりますよう、お祈り申し上げます。
と、いう年賀のあいさつを、晴れやかな気持ちで口にできない日々が続いています。武蔵野市恒例の新年賀詞交換会や消防出初式なども軒並み取りやめとなりました。
1月5日(火)、武蔵野赤十字病院泉並木院長のお話を、武蔵野市の合同研修会でお聞きしました。市職員・議員など132名が3会場で参加。昨年1月に市の新型コロナウイルス感染症対策本部が立ち上がって以来、医療現場のようすを直接知りたい、と誰もが感じていましたが、ようやく生のお話を聞く場が実現したことを評価し、何点か書きたいと思います。
コロナ以外の通常医療との両立 ほぼ医療崩壊している
武蔵野赤十字病院は、国内351機関都内10機関ある「第二種感染症指定医療機関」の1つとして、隔離病棟を持っている。しかし、その隔離病棟は隔離が目的であるため重症患者の高度医療には不向き。(まずここに驚きますね) 3月以降、突貫工事でゾーニング改築を進め、「重症5床」「中等症40床」を確保。5月までに61人(国内の赤十字病院トップの実績)、11月までに250人以上の入院患者を受け入れた。
1月5日現在、重症5床、中等症37床が埋まっている。コロナ以外の患者がいる救急救命センター8床も埋まっており、ほぼ「医療崩壊」と言ってよい状況にある。東京都からは年末に「さらに中等症のベッドを70床に追加してほしい」と要請があった。(とんでもないクリスマスプレゼントですね…!)
もともと、がん診療においては、「地域がん診療連携拠点病院(高度型:高度型とは、連携拠点病院の中でも高い基準を満たした全国47機関のみが指定されている病院)」として、ダヴィンチ手術などを行っている。循環器においても産科(無痛分娩など)においても、がんゲノム医療においても大きな役割を担っている病院であり、「コロナ以外」の通常医療を置き去りにできない。緊急手術も年間130例ほど必ずある。今回は、コロナ対応のため5月には、計画手術を半分に減らさざるを得なかった。(減収の要因ともなった)
武蔵野赤十字病院が、「後ろにはもう誰もいない」地域内で最高水準の医療を担う最後のとりでとして、コロナはもちろんコロナ以外の通常医療に立ち向かっているようすがわかりました。
ワクチン作成は困難 楽観的ではない ワクチンを希望しない自由
泉院長は、肝臓疾患の専門家、とりわけC型肝炎ウイルス治療の経験が深い。その見地から、「HIVやC型肝炎ウイルスなど、変異するウイルスに対するワクチンの作成は困難である」「ワクチンで抗体ができたとしても、感染を防御できる抗体かどうかは不明」と明言され、「ワクチンを待望する声が大きいが、自分は楽観的ではない。完成は難しい」と述べられました。
西園寺も、現在のメディア報道が「ワクチンさえできれば一挙に解決」「いつ接種が始まるのか」「だけど副反応がある」という論点に偏っており、そもそもワクチンの効果に限界がある、ワクチンで撲滅はできない、という点が語られていないことに不満を抱いています。
ワクチンは万能ではありません。ワクチンは健康な人が、副反応のリスクを覚悟しつつ、メリットとのバランスを考えた上で接種すべきもの。また、抗体生成は個人差が大きく、効果が出る人と出ない人の差がある。
西園寺自身は、今のところコロナワクチンを接種する考えを持っていません。今後、エッセンシャルワーカーへの接種が始まった場合においても、「ワクチンを希望しない人」への解雇や嫌がらせなど差別があってはならない。自分の体質を考えてワクチンを希望しない人の判断が尊重されるべきと考えています。
風評被害に立ち向かうエイエイオー
「あのウチは、親が武蔵野赤十字病院に勤務しているから、コロナウイルスに感染してるかもしれない。だからあの子と遊んじゃいけない」と保育園で言われた…。わが子に影響が及ぶのは本当にせつない。目に見えない放射能のせいで、3.11後の福島の子どももそんな辛い経験をしました。心が折れそうになるそんな状況の中、泉院長は「一人ひとりに抗議するわけにもいかない。元気を出してやるしかない。まさに戦場、というつもりで病院一丸となって戦う体制を整え、朝礼でエイエイオー!と声掛けして戦ってきた」と述べられました。
高いモラルに支えられて、戦ってきてくださった皆さん。ですが、その緊張が続いてまもなく1年になろうとしています。さらに感染者が増え、あとからあとから重症者でベッドが埋まっていく。緊張感がどこまで続くのか、体力気力は無限ではありません。交代で休息を取り、心と体を労っていただきたいです。
リスクマネジメント コロナに克つ
武蔵野赤十字病院は、医学部を卒業した学生さんが「研修医として働きたい」希望の全国ランキング1位、だそうです。それだけあらゆる意味でハイレベルを維持している病院。
昨年1月にチャーター便帰国者を受け入れて以来、院内の編成替え、4月に情報収集センターを立ち上げ司令塔を一本化、など臨戦態勢を素早く整備したことが理解できました。適切な情報収集、一元管理、そして持てる資源を最適に配分する。リスクマネジメントの実践として記録に残すべきと思いました。