精神障がい者の生活を地域で支える「多摩在宅支援センター円」

3月に武蔵野市が作成して配布を始めている「心のバリアフリーハンドブック」

4月18日(木)午前、NPO多摩在宅支援センター「円」(立川市)を視察しました。

 日本の精神医療は、明治時代「医療ではなく、措置」つまり医療の対象ではなく、警察が監視する対象だった時代を引きずっています。暴れて家族が面倒を見きれなくなり、専門病院に入院する。しかし治ることなく病院内で何十年も過ごし老いていく。当事者にとっても家族にとっても大変不幸な状況が続いています。

 「精神科では入院患者あたりの医師の数が他の科の3分の1・看護職員は3分の2で良い」とする旧厚生省による50年以上前の規定(いわゆる精神科特例)が、現在も続いている現状にはあらためて怒りを覚えます。精神科患者は「治らないのだから、病院に入れておくしかない」体制だったのです。

  「見て見ぬふりをしてきた」とも言われる精神医療の現状を正しく理解し、地域で誰もがその人らしくともに暮らす「地域リハビリテーション」の理念に基づいて、対策を進めていくことが必要です。精神医療の診療報酬体系の見直しや人的資源の確保などは、診療の質の改善への努力もさらに進めなければなりません。

  私は1月に浜松市の「ぴあクリニック」でACT(Assertive Community Treatment)プログラムの実態を視察してきましたが、都内にもACTの考え方で活動している方々がいることを知り、会派の議員と共に行ってきました。

 NPO多摩在宅支援センター「円」理事長の寺田悦子さんは、精神科看護師として患者さんの生活に向き合った経験から8年前にNPOを設立し、主に八王子市と立川市を拠点にして、統合失調症の方の支援を行っています。 

 朝9時からのMTGに同席させていただきました。まず、夜間電話当番のスタッフさんから昨夜かかってきた電話の報告。22時台、23時台、0時台と3本の電話があったこと。「落ち着かない」「幻聴がある」など少し話をした後、「頓服薬を飲んでみます」などと自分なりの解決法を見つけ、電話が切れたそうです。24時間365日、不安を感じたらいつでもスタッフさんが電話に出てくれる(入院している時のナースコールに相当します)安心感が、患者さんの在宅治療の土台になっていることを痛感します。15人のスタッフさんが約20人の患者さんの現状を報告、きょう1日の勤務予定を共有した後、それぞれ訪問看護に散らばっていかれました。1人1日4~6人を訪問するのが通常とのことです。

 寺田理事長からは、「多摩地域は精神科病床の多い所。青梅市は人口当たりベッド数が世界一である」「自治体によってかなり温度差がある。担当職員が熱心なところは、地域福祉との連携が進みつつあるが、精神科ベッドが多く『入院させて済まそう』という雰囲気のある自治体は在宅医療への理解がまだまだである」などのお話を聞きました。「自民党に政権が戻り、『精神科患者は家族が看るべき』という古い政策に逆行する危惧がある」との声もあるそうです。

 世界的にみて大きく立ち遅れている日本の精神医療。「誰もがその人らしく地域で暮らす」観点で、施策を進めていかなければなりません。

 【参考】 統合失調症などの精神疾患を持つ方は、全国で約80万人(2008年厚労省)、人口の0.8~1.0%の罹患率。武蔵野市でも1,300人以上の患者さんがいらっしゃり、けっして珍しい病気ではありません。このうち、社会的入院を余儀なくされている患者が7.2万人、都内で5,000人と言われています。(精神科ベッド数は全国で約30万床と諸外国と比べ非常に多いことが大きな問題です) 入院治療が必要な人を除けば、「本来適切な生活支援を受けることにより、社会生活が可能になる患者」はかなりの数存在しますが、ケアする人がいないために病院から出られない人たちなのです。

中央が、寺田悦子理事長。立川市高松町の事務所は、新たに「地域活動支援センター」をスタートする活気にあふれていました。