住民投票条例が必要なわけ~住民投票条例案否決その3~

12月26日(日)、緊急市政報告会を開催し、一連の動きを説明、意見交換を行いました。

次に、そもそも自治基本条例と住民投票条例を作る意味は何だったのか? 過去の他自治体の住民投票条例と、武蔵野市の住民投票条例案の違いについて書きたいと思います。

自治基本条例を作る意味~国の下部組織から、対等な関係へ。地方分権で住民と向き合う必要が明確になった~

2001年ニセコ町「まちづくり基本条例」に始まり、2003年近隣の清瀬市杉並区含め、全国で制定が続き、2020年の武蔵野市は全国397番目です。これらの動きの前段として、「地方分権改革一括法」が2000年に制定され、国と地方自治体の関係がガラッと変わったことに言及しないわけにはいきません。(当時、武蔵野市に転入してきたばかりの西園寺がそのことを知っていたか?と言えば、答えはNOです。ほとんどの市民は今でも知らないのではないかな)

それまで、地方自治体は国の下部組織、国に逆らえない。お上から降りてきた事務事業を黙って正確に執行する。(機関委任事務、と言っていました) 自らのアタマで考え実行する「自治」に乏しかった。「国」→「都道府県」→「市町村」という上下関係が歴然としてあった。

「自治」という言葉を聞いて何を思い浮かべますか? 「自治会、町内会」、かな? 「自治」と画像検索すると、自治会の相談、回覧板、防災訓練などのイラストが出てきます。

それが地方分権一括法により、「地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにする」「地方公共団体は厳しい財政状況や地域経済の状況等を背景に、簡素で効率的な行財政システムを構築し、自らの行財政運営について透明性を高め、公共サービスの質の維持向上に努めるなど、住民との対話の中で自主的に行政改革に取り組むことが必要」とされたのです。

機関委任事務は廃止され、

法定受託事務=本来国がやるべき事務事業を、自治体が代わって行う。選挙、戸籍、生活保護などが代表例。実際に行うのは地方公務員であるが、費用は国が負担する。

自治事務=①法令にしたがって行う介護保険、福祉など。 ②法令によらないもの。公共施設管理など。財政力のある武蔵野市は、ここが大変充実しており、ムーバス、テンミリオンハウスなどを実現してきた。

に明確化されました。この自治事務を行うため、限られた財源をどう使うのか? 地方自治体は、住民の意思を尊重し知恵を絞って決めていく必要がある。市長や議会が勝手に進めたと批判されないように、住民全体の福祉向上のために、「主権者である住民」「首長」「議会」の三者の関係性をルール化しよう、という全国的な流れになりました。

住民投票条例が必要なわけ

自治基本条例の大きな趣旨は、「主権者である住民」の意思をないがしろにしない、無視しない。ということにあります。元々、首長には非常に大きな権限があり、あらゆる情報が集まってくる。議会と議員にも非常に大きな権利が保障されています。(議員辞職勧告が出ても辞める義務がない。どんなに上位の役職の人であっても、クビにできない。というのは先日あった、ファーストの会女性都議会議員の例でご存知の通りです)

しかし、民主主義国家の主権者は国民、住民。もし万が一、市長への手紙を書いても、窓口に相談に行っても、さらに議員に相談しても、陳情しても、取り合ってもらえない、だけど地域に住む人たちは大きな課題を抱えていて解決しなくちゃならない。という状況に陥ってしまったとき、諦める必要はない、だって主権者は住民なんですから。

署名を集めて一定の要件をクリアすれば、必ず住民投票を実施する。(常設型、実施必至型) 住民の意思を公に示すことができる。投票に至る経過の中で、なぜ首長や議会が取り上げないのか、どこが対立点なのか、明らかになる。これが自治基本条例の趣旨を実効的に担保するための住民投票制度の意味です。

武蔵野市住民投票条例案の特徴は何か?

(1) 【住民投票を行う条件】配置分合・境界変更のとき、必ず住民投票を行う。(自治基本条例19条で既に明記)

配置分合・境界変更(市の廃止、設置、分割、合併や市境の変更のこと。具体的には隣自治体と合併の賛否を問う場合などを指します)のときは必ず行う。これは全国的に前例がありませんが、懇談会で異論なく、既に自治基本条例で既定済みです。

(2) 【住民投票を行う前提】単発型でなく、常設型である。

ある案件について住民投票を実施したいと考えたらどうするか? 現在どこの自治体でも、有権者の50分の1の法定署名を集めることにより、直接請求を行うことができます。2012年原発都民投票、2013年小平市都道に関する住民投票。の例があります。

しかし、これらはあくまでも請求できる、というところまで。原発都民投票では武蔵野市内で6,000筆強、都内で32万筆強の署名を集めましたが、都議会が否決。住民投票は実施されずじまいでした。

小平市住民投票では、「住民投票を行う」という条例案は議会を通り、投票を行うこと自体は決まったものの、その後「投票率50%に達しない場合は不成立」と条例が修正されてしまい、結局投票所に足を運んだ51,010人(投票率35.17%)の投票用紙は開票されることなく裁判の末焼却されてしまいました。

これらを受けて、議会の議決を経ずに一定の署名が集まれば住民投票を必ず行う「常設型」住民投票制度を選択したのが武蔵野市の特徴です。すなわち、原発都民投票のときのように、32万人もの都民が望んだのにもかかわらず、議会に門前払いされてしまう、ということがないようにしたのです。そもそも、住民投票制度は市長も議会も取り合ってくれないときの最後の手段として設定するわけですから、「議会の議決を経ずに」「必ず行う常設型」に設定したことは当然の帰結です。懇談会でもそのような議論が行われていました。

(3) 【住民投票実施後の開票結果】不成立でも開票する。

同様に、小平市の例を受けて武蔵野市では、「住民投票の投票率が、成立の要件50%に至らなくても、開票は行い、結果を公表する」としました。この点は、西園寺が指摘・提案したものです。懇談会で異論なく、条例案に盛り込まれました。そりゃそうですよね。数万人の方が投票所に足を運んだその投票用紙を焼却して結果がわからない、なんて許せませんよね。

(4) 【住民投票を実施するかどうかの条件】有権者の4分の1の署名が必要。

全国の事例をみると、リコール請求と同じ「3分の1」と高く条件設定している自治体と、「6分の1」の自治体、その中間の「4分の1」の自治体、などさまざまです。一律の決まりはないのです。懇談会では、「どの数字が良いのか決め手はない」と意見が出ました。結論として、武蔵野市ではリコールよりはハードルを低くする「4分の1(約3万人に相当)」を選択しました。この数字は、最近の市長選で当選者が獲得した得票数に匹敵するもの。「市長選でAさんを選んだがそれはB候補に比べてマシと判断したから。A市長が〇〇政策を無視して取り組まないのは困る」と多くの方が考えた場合を想定できる数字です。

(5) 【誰が発議できるか】市民発議のみ可能とする。

ここまでお読みになると、武蔵野市の住民投票条例案の特徴は、「市長や議会が取り合ってくれないときのための最後の手段」「伝家の宝刀」として作られていることがわかると思います。したがって「市長発議」で行うのは前述の ①配置分合・境界変更のときのみ。

全国を見回すと、首長が議会と感情的に対立し、議会が否決を繰り返す場合があります。業を煮やした首長が「議会がダメなら有権者に味方になってもらおう」とばかり、住民投票制度を使って、結論を急ごうとすることが想定されるのです。武蔵野市では、議会軽視に陥る「市長発議」はダメ。市長と議会多数派が、市民の声をないがしろにし、取り合ってくれない時を想定しています。

 

→ 市長も議会も取り合ってくれない、そんなことが武蔵野市で起こり得るの? その4につづく。