水は命を守るとりでその3~水は自治の基本

41分の映画には、国内の水道事業をめぐって、考え、闘っている人々の姿が描かれています。

どうする?日本の水道

学習会の第3弾は10月6日、世界の水道事業の再公営化を描いた「最後の一滴まで」を受けて、国内の水道事業広域化にまつわるドキュメンタリー「どうする?日本の水道/注7」上映会と辻谷貴文さん(全水道会館水情報センター事務局長)トークで開催しました。

8月30日、武蔵野プレイスにて。「どうする?日本の水道」上映会で発言する西園寺です。

人口減と水需要大幅減(注8)により、全国では事業の広域化や見直しは避けられません。水道法改正もそもそもは水道事業の持続可能性を目的とした広範囲の改正であり、変革は不可避です。

しかし2013年4月、麻生副総理のワシントンCSIS(戦略国際問題研究所/注9)での発言「日本の国営もしくは市営・町営水道は、すべて民営化します」以来、国民から見えないところで検討が進んでいたのです。水道法改正に「コンセッション化」を紛れ込ませたやり方は、「国民が気づかないうちにナチス憲法に変わっていたあの手口に学んだらどうか」を思い起こさずにいられません。

昨年11月、内閣府民間資金等活用事業推進室に、フランス水メジャーヴェオリア社日本法人からの出向職員が勤務していることが明らかになり、現政権の意図ははっきりしました。

映画の中では、政権のトップセールスに乗った宮城県の例や、乗ろうとしたが市民や議会の賛同を得られず選挙対応で保留にした浜松市や大阪市の例が示されました。40以上の自治体が国の「コンセッション化に関する調査委託費」補助を受けて、民営化に乗り出そうとしています。

逆に新潟県・長野県・福井県は、県議会が「水道法改正に反対する意見書」を国に提出。民営化にNOの意思表示をしました。

8月10日(土)開催された「どうする?日本の水道~自治・人権・公共財としての水を」完成シンポジウムにて。左から、内田聖子さん(PARC共同代表)、辻谷貴文さん(全水道会館水情報センター事務局長)、岸本聡子さん(トランスナショナル研究所、研究員)、橋本淳司さん(アクアスフィア・水教育研究所代表)。

 

水は自治の基本

人口減少地域で「水を守る」本当の目的を果たすためには民営化ではなく、施設の統廃合を決断しつつ、持続可能性を担保する担い手職員を地道に育てること、これが最優先です。

住民自らが「水道事業を引き継ぐために、何が必要か」考えるワークショップを行い、まちづくりの観点から料金値上げを決めた岩手県矢巾町や、水質の悪い浄水場を廃止し稼働率を80%に上げて経営改善した岩手中部水道企業団(北上市・花巻市・紫波町)の取り組みが、参考になるのではないでしょうか。

大阪市水道局で長く勤務され、水道事業の本音をよく知る辻谷さんは次のように語りました。

 憲法25条「1すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する 2国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」を根拠として、公が誇りを持って水道事業を担ってきた歴史の上に立ち「公がダメ、民がいい、という単純な二項対立にしてはいけない。主権者である国民が水に関心を持ち、『水は自治の基本』と考えて、みんなの公共を目指すべきです。

注7…どうする?日本の水道(41分) http://www.parc-jp.org/video/sakuhin/suido.html

注8…武蔵野市の水需要を例にとると、給水人口はここ40年横ばいか微増。一方給水量は平成に入ってから明らかに減少しています。節水型トイレなど機器改善によるものとされています。人口が増えない、節水が進む(水道事業の収入が減る)、事業を安定して持続させるためには、施設の統廃合や料金値上げなどを計画的に進める必要があります。

全国の給水量は?というと、ピークだった2000年に、3,900万㎥/日。2014年に、3,600万㎥/日に減少。 2060年には、2,200万㎥/日まで減る。と厚生労働省水道課(2017年)が推計しています。

注9…CSIS(米戦略国際問題研究所)は、外交問題評議会(CFR)の下部組織。多くのワシントンの保守系シンクタンクの1つ。2013年当時、選挙公約になく国会で議論もされていないのに、麻生副総理が軽々しく発言したことに対する抗議の声が挙がったが、政権交代直後であり、大きく取り上げられることはなかった。

 

西園寺みきこは、生活クラブ運動グループ創の主催で、今年「水は命を守るとりで」をテーマとした3回連続学習会を開催しました。その報告を4回に分けて投稿します。なお、この記事は、「ごみ・環境ビジョン21」の機関紙「ごみっと・SUN」から執筆依頼を受けて書き起こした原稿(11月発行のVol16に掲載される予定)を手直ししていることを申し添えます。